最新情報 10.04.06

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10.04.06

泉奈津子氏らが、DNAの損傷や遺伝子発現エラーなどからゲノムと細胞を守る、PIKKと呼ばれるタンパク質リン酸化酵素群を制御する新たな機構を見いだしました。

 今回の研究により、ゲノムの無傷性を統御している機構の存在が明らかとなりました。幹細胞やがん幹細胞におけるゲノムの無傷性を保障する機構、がん幹細胞における放射線や抗がん剤への耐性の克服に対してもヒントを与える成果です。

 この成果はScience Signalingの4月6日号に掲載されました。
 Science Signaling誌の編集者は、「Masters of Integrity、(ゲノムの)無傷性の支配者」の発見、という言い方で今回の研究成果を紹介しています。

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Izumi N, Yamashita A, Iwamatsu A , Kurata R, Nakamura H, Saari B, Hirano H, Anderson P, Ohno S: AAA+ Proteins RUVBL1 and RUVBL2 Coordinate PIKK Activity and Function in Nonsense-Mediated mRNA Decay. Science Signaling, 3(116): ra27, 2010.

【研究の背景】

 ゲノムDNAにコードされた遺伝情報は、RNAを通じてタンパク質に翻訳されます。ゲノムの配列こそが私達の身体の働きを決めています。最近の研究から、ゲノムの配列が厳密に保たれること、その維持と発現が正確に行われること、つまり、ゲノムの無傷性の保全に関わる機構のいくつかが明らかとなりつつあります。一つは、ゲノムの働きを決めるクロマチンの制御やテロメアの維持、遺伝子発現制御などに関わるタンパク質であるRuvBL1/2を含む様々なタンパク質複合体の存在です。もう一つは、Phosphatidylinositol 3-kinase-relatedprotein kinase (PIKK) 群と呼ばれ、ゲノムにコードされた遺伝子が正確に発現されることを監視する機構の存在です。

 ゲノムの無傷性がいかに保障されているのかと言う問題は、幹細胞のゲノムの維持という観点から極めて重要な問題です。さらに、がんの再発に際して大きな役割を果たしていると考えられているがん幹細胞の自己複製の機構という観点でも、極めて重要な問題です。

【研究の概要】

 本研究グループは、PIKKの一つでありmRNAの品質を監視する役割を担うタンパク質リン酸化酵素SMG-1の解析の過程で、上述したRuvBL1/2が、SMG-1に相互作用して、mRNAの品質監視に関わっていることを見いだしました。さらに、ゲノムの働きを決めるクロマチンの制御やテロメアの維持、遺伝子発現制御などに関わる様々なタンパク質複合体含まれる事が知られていたRuvBL1/2というタンパク質が、SMG-1のみならずDNA修復やmRNA翻訳に関わる各々のPIKKに個別に結合し、放射線などでDNAに傷がついたときに起きる修復機構に、大きな役割を果たしていることを突きとめました。

 この機構は、幹細胞におけるゲノムの無傷性を保障する機構であると同時に、がん幹細胞が放射線や抗がん剤に耐性を示す機構の一端であると考えられ、全く新しい抗がん剤の開発にも弾みをつけることが期待されます。

 

 

大野茂男 (ohnos@med.yokohama-cu.ac.jp)
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