構造エピゲノム科学研究室(小沼グループ)では、がんや炎症に関わる遺伝子の発現制御機構を構造生物学的アプローチで解析します。また転写に関連したヒストン修飾酵素やリーダータンパク質の構造・機能を原子レベルで理解し、エピゲノム創薬として新規治療薬の開発を目指しています。
Research
研究方法
NMR・X線結晶構造解析・クライオ電子顕微鏡・ネイティブ質量分析など構造生物学の分析手法を統合的に用いて研究を進めます。




指導方針
研究をしたい熱意ある方を歓迎します。研究内容について日々の議論は当然ですが、論文作成や研究費獲得を戦略的に行うことで業績を積み上げます。可能な限り複数のテーマを担当し、さまざまな実験手法を身につけることを目指します。
Research Topics
非古典的ヒストン翻訳後修飾の機能解析と転写制御機構の解明
転写機構を理解する上で、ヒストン翻訳後修飾を担う酵素(writer, eraser)や修飾基に結合するタンパク質(reader)を同定することは必須です。例えば、代表的(古典的)なヒストン修飾基であるアセチル化リジンやメチル化リジンのリーダータンパク質としてブロモドメインやクロモドメインがそれぞれ同定されており、これらの転写における役割はよく理解されています。しかしながら、近年発見されてきている新しい(非古典的)ヒストン修飾については、関連タンパク質の知見が限定的であることから生物学的機能がまだまだ分かっていません。私たちはこれまでに、非古典的ヒストン修飾の一つであるクロトニル基のリーダータンパク質を同定し、さまざまな遺伝子の転写制御機構を解析することで、がん細胞が増殖する仕組みを解明してきました(Zhang et al. Structure 2016, Liu et al. Mol Cell 2023, Konuma et al. J Mol Biol 2024)。
さらに、クロトニル化を起因とした転写制御がアセチル化やメチル化に比べてどれだけ一般的なのか?の問いに答えるべく、より詳細な分子機構の解析を行なっています。また、分子レベルから細胞レベルまで観察の解像度を広げることで、がん細胞で生じる異常な転写制御の場とした“液滴”の解析にも取り組んでいます。
BETファミリータンパク質の低分子・中分子を用いた阻害剤開発
転写に関わるタンパク質を標的としたエピゲノム創薬において、がん治療を主目的として開発されたHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤がいくつか上市されています。一方で、HAT(ヒストンアセチル化酵素)やリーダータンパク質の阻害剤で上市されたものはまだありません。例えば、アセチル化リジンのリーダータンパク質としてよく知られているBETファミリー(BRD2、BRD3、BRD4、BRDT)のブロモドメイン阻害剤は、がんや炎症性疾患などの治療を目的として精力的に開発が行われていますが、副作用や薬剤抵抗性が大きな課題となっています。そこで私たちは、ブロモドメインではなく、同タンパク質のETドメインに着目しました。
ETドメインは転写関連タンパク質をヒストンにリクルートする役割を担っており、さまざまなタンパク質と相互作用します。そこで、私たちはこれまで種々のETドメイン複合体についてNMRを用いた構造解析を行い、相互作用様式を解明してきました(Zhang et al. Structure 2016, Konuma et al. Sci Rep 2017)。その立体構造から得られた原子レベルの構造情報に基づき、低分子や中分子化合物を用いた阻害剤開発に取り組んでいます。さらに我々が開発したETドメイン阻害剤と既存のブロモドメイン阻害剤を併用することで、がん細胞増殖抑制に対するシナジー効果をすでに確認しており、新規治療法の提案を目指しています。また、これら阻害剤を用いた物性解析やトランスクリプトーム解析などを行うことで、ETドメインとブロモドメインの転写制御におけるそれぞれの役割をさまざまな視点から解明し、BETファミリータンパク質の生物学的機能をさらに深掘りしています(Azegami et al. Mass Spectrom 2022)。
一細胞ネイティブ質量分析の方法論開発
極微量サンプルでの創薬スクリーニングの実現を目指し、ネイティブ質量分析(ネイティブMS)の方法論開発を行なっています。みなさんご存知の通り、質量分析装置は検出感度がとても高く、物理化学的分析法の中でトップクラスです。しかし質量分析では有機溶媒など、タンパク質が変性してしまう条件下で行われるのが一般的です。一方、ネイティブMSではタンパク質の立体構造が壊れない条件下でタンパク質の質量を分析します。これはタンパク質の複合体が検出できることを意味します。この分析手法はこれまで、精製したタンパク質に対してのみ適用可能でした。そのため凝集や低発現量のせいで技術的に精製できないタンパク質のネイティブMSは測定できませんでした。
そこで私たちは、標的タンパク質を発現させた大腸菌をすり潰した物をそのまま、つまり精製せずにネイティブMSに供する技術を開発しました(Takano et al. Anal Bioanal Chem 2020)。さらにこの技術をヒト細胞に応用すべく、まずはたくさんの赤血球をそのままネイティブMSに供し、ヘモグロビンの検出を試みました。そして測定条件を最適化することで、たった一つの赤血球から四量体のヘモグロビンを検出しました。世界初の一細胞ネイティブMSの成功です(Sakamoto et al. Anal Chem 2021)。次の段階として、哺乳類細胞に高発現させた標的タンパク質の検出にも成功しています。また、精製は必要ですが、膜タンパク質のネイティブMSにも成功しています(Tajiri et al. ACS Omega 2023)。現在は、細胞内の標的サンプルを時空間的に解析するため、細胞にキャピラリーを穿刺してネイティブMSに供する技術開発に取り組んでいます。また、一細胞で創薬スクリーニングを行うためのプラットフォーム開発も行っています。
Member
准教授


小沼 剛
Tsuyoshi KONUMA
技術補佐員
豊田 奈々子
Nanako TOYODA
古土井 祐子
Yuko FURUDOI
学生
外園 清香
Sayaka HOKAZONO
M2 >>
海老沼 璃乃
Rino EBINUMA
B4 >>
矢部 道也
Michinari YABE
B3
Publications
Researchmapを参照してください。
https://researchmap.jp/7000023013/published_papers
Contact
横浜市立大学 生命医科学研究科
構造エピゲノム科学研究室
〒230-0045
横浜市鶴見区末広町1-7-29
メール:konumax[at]yokohama-cu.ac.jp
※[at]を@に変えて下さい。

