被災地で活躍する市大卒業生

 2月5日(日)、市大・八景キャンパス「いちょうの館」で、学生や社会人など約30名が集まり、東北の復興をテーマにしたワークショップが開催されました。主催は国際教養学系社会関係論コース・滝田ゼミと、現地で活動する横浜市立大学卒業生の小林紀子さん、山中努さん、江川沙織さん。

 2011年の東日本大震災からまもなく6年を迎える現在、被災地域には多くの担い手がうまれ、震災後の新しい地域づくりに向けた取り組みが始まっている中、福島ではいまだ多くの人々が県内外で避難生活を送り、岩手や宮城の復興とは異なる問題を抱えているといいます。

オープニング

 滝田先生と小林さんは2013年2月、仙台で行われた震災復興に関するワークショップで出会いました。小林さんはその後、それぞれの分野で東北の復興支援活動に関わっている山中さんと江川さんに出会い、「東北には市大卒業生や市大にゆかりのある人が多いね」「いつか卒業生と現役生が東北復興についてざっくばらんに対話できる機会を持てないか…」と話していたそうです。昨年2月に小林さんが滝田先生にダイアログの開催を相談したところ、まず現役生に現地を知ってもらおうということになり、昨秋の福島フィールドワークにつながったということです。

  

江川さん       山中さん            小林さん

 今回の企画では江川さん、小林さん、山中さんによる、震災後に東北の復興に関わるようになったエピソードの紹介や、拠点とする気仙沼市(宮城県)、楢葉町(福島県)および福島県域からの報告と、在校生による福島フィールドワークの報告、そして「これからの東北の復興」をテーマにした一般参加型のワークショップを行いました。

 「フィールドワークを通じて、ほかにもたくさん東北各地で活動中の市大卒業生がいると知り、とても驚きました。市大の規模からすると、その割合はすごく多いのではないでしょうか。卒業してから被災地支援活動に関わっているOB・OGがたくさんいることを知って、すごくうれしかったですね(滝田先生)」とお話してくださったように、卒業生からも、実際にほかにも各地で市大卒業生が活躍していて、皆つながりながら支援をしているというお話が聞けました。

 在校生からのフィールドワーク報告と、今後の取り組みについて

  

滝田ゼミの学生の発表            石川ゼミの学生の発表

 アイスブレークは、参加者全員による自己紹介。在校生のほか、卒業生や地域の方、被災地支援に強い関心をお持ちの方等さまざまなバックグラウンドの方が、「東北の復興への思い」を共有していることがわかりました。

 続いて滝田ゼミ生と石川ゼミ生によるフィールドワークの報告。滝田ゼミの学生は、写真を使いながら実際に見てきた現地の様子を伝え、現地の方との交流を通じてそこで感じた「つながりの大切さ」を発表しました。今後の課題として「アピール力が足りないのではないか?」ということを挙げ、それを解決するために、さっそく4月から学内で『オーガニック・コットン・プロジェクト』と『滝田ゼミ生による講義』に取り組むそうです。『コットン・プロジェクト』は、福島で採れた綿花のタネを自分のまちで育て、できたコットンで商品を作って売るというプロジェクトで、中庭に畑を借りてそこで育てるとのことなので、興味のある方はぜひご協力をお待ちしています!

 続く石川ゼミの学生からは、福島県楢葉町で中学生に向けて行ったワークショップの報告がありました。楢葉町における復興まちづくりプロジェクトに子どもたちの意見を取り入れよう、というもので、子どもたちが自分の将来を考えるきっかけにするとともに、まちへの愛着と関心を持ちながら、まちづくりに参画してもらおうというもの。どちらも学生ならではの目線で見てきた、現地の報告でした。

卒業生それぞれの活動へのきっかけと、現地報告

 卒業生の3人はそれぞれ、卒業から現在に至るまで、いろいろな場所でたくさんの人と関わりながら地域貢献活動を続けてきたそうです。

 在学中は部活に全力投球して、卒業後働く人を応援する金融機関に進み、その後地元に戻る直前に震災があり、以来震災復興の支援事業に参画し、現在は地元NPOで高校生の支援を続けている江川さん。

 学生時代あちこち海外を旅し、卒業後東ティモールなどでNGOに関わった後、支援団体を支援する“中間支援組織”、国際協力NGOジャパン・プラットフォームに所属している山中さんは、震災が起こってすぐ宮城県のボランティアセンターに入り、人手の足りない女川町に派遣され、その後岩手、遠野をへて福島、現在はいわきを拠点に活動しています。

 福島出身で国際協力の勉強がしたくて市大大学院に入り、卒業後いろいろな仕事をしながら自分探しを続けているときに震災に遭って、すぐに宮城県で支援活動を始め、現在は福島県楢葉町役場で働く小林さん。

 ここにたどり着くまでの経緯は3人3様。迷うこともあったと言います。しかしそれでも皆、東日本大震災をきっかけに東北に引き寄せられ、現在に至るまで6年間、フィールドに立って支援活動を続けている先輩たちなのです。

 そんな3人から、現場にある悩みや問題が、なかなか外部に伝わらないというお話を聞きました。現実が曲解されてしまったり、風評がおこったり、それによって被災地の方々は悩み苦しんでいるというお話もありましたが、この場では、そういった問題を皆で共有することができたのではないでしょうか。

 

 興味あるテーマごとに、「問題」の共有と対話、そして行動へ

 

 休憩時間に、卒業生の方がお土産に持ってきてくださったお菓子を食べながら歓談した後、後半は、4つのテーマで、被災地の人々やそこで起こっていること、離れた場所に住む私たちの思いなどについて対話をする、ワールドカフェ方式のワークショップを行いました。参加者は、「復興まちづくり・行政」「原発・風評・見えない恐怖」「食べもの・文化・地域性」「若者に何ができるか・求めるか」の各グループを順次回りながら、お互いに意見を共有し合いました。あちこちで卒業生の方や一般参加で支援活動を続けている方、学生による活発な意見交換が行われ、話は尽きませんでした。それだけこのテーマは、問題を抱えながらも皆の関心が高いということなのでしょう。それと共に、学生にとっては、卒業生の背中を間近に見ることができた喜びと、彼らから勇気や励ましの言葉を受け取ることができた貴重な時間だったのではないでしょうか。

 最後は、模造紙に貼られたキーワードを書いた付箋を、各グループの代表者がまとめて発表し、それぞれのグループで話し合われたことを全体で共有しました。

 「今までは発信できていなかった。今日が東北のことを思ってくれるきっかけになれば」

 「行かないより行ったほうが良いし、行って初めてわかることがある」

 「動く楽しさを知った子たちは、自分から動くようになる」

 「メディアで伝えられていることと、自分が聞く話のギャップをどう埋めればいいか」

こんな言葉に、この日の皆の思いが詰まっていました。

「この貴重な濃い時間をこれだけで終わらせないよう、次回もぜひ」と惜しまれながら、時間も少しオーバーして終了しました。                                    (ボランティア支援室・柳本)

 

_____________________________________________

〇江川沙織(えがわ さおり)さん

横浜市立大学商学部経営学科野々山ゼミ2006年卒。公益財団法人地域創造基金さなぶり(宮城県)にて、東日本大震災からの復興を担うNPO向けの助成金プログラムの企画・運営に従事。 2015年4月よりフリーランスとして、NPO法人wiz(岩手県)、NPO法人底上げ(宮城県)等において大学生向け実践型インターンシップや、高校生が地域で行う主体的な活動のサポートに携わる。

〇山中努(やまなか つとむ)さん

横浜市立大学商学部経済学科藤山ゼミ1993年卒。認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム(福島県)にて、プログラムコーディネーターを担当。宮城県社会福祉協議会ボランティアセンター、女川町社会福祉協議会ボランティアセンター、岩手担当を経る。

〇小林紀子(こばやし のりこ)さん

横浜市立大学国際文化研究科唐ゼミ2003年修了、修士(国際関係論)。震災後、NPO法人ジェン、みやぎ連携復興センター(宮城県)等を経て、2015年4月より楢葉町(福島県)にて生活支援を担当。仮設住宅等に暮らす町民の生活再建・帰町に向けたサポートに携わる。