アドバンスドコース

臨床生理学

循環制御医学部門

(生理学第1講座)

2004年電子版

 

           「腎機能研究法」                                     担当:押川 仁

 

           「心・循環機能研究法1」                       担当:南沢 享

 

           「心・循環機能研究法2」                       担当:常松尚志

 

           「メディカルエレクトロニクス」                 担当:堀 英明

 

 

集合場所:生理薬理実習室(C203)

時間はいずれも午後1時0分〜午後6時0分(予定)。

レポート等の提出については各担当教員から説明があります



アドバンスドコース 臨床生理学

「腎機能研究法」

担当:押川 仁

 

1.目的

体液の浸透圧調節および酸・塩基平衡調節における腎臓の機能を理解することを目的とする。これらの腎臓の機能を理解するために各自が被験者となり、一定量の水、生理的食塩水、アルカリ負荷を与えた後の腎臓の反応を観察する。

 

2.方法

 1) 被験者

  被験者は健康な男子全員とする。腎疾患のあるものはあらかじめ申し出ること。被験者は実習当日、通常の朝食を必ず摂取し、それ以後の飲食はしないことが望ましい。昼食はできるだけ控えめにして、内容を記録して下さい。被験者は実習中、指定されたもの以外摂取しないこと。採尿時以外の時間は起座位で安静を保つこと。

 

 2) 実験手順

  @実験開始時に完全排尿する。

  A30分後に再び完全排尿し、全量を採取する。尿量を測定するとともに試験紙にて尿一般検査を行う。

  B直ちに3つのグループに分かれて以下の処置をする。

 

    T.1000mlの水を急速に摂取する。

    U.1000mlの生理的食塩水を急速に摂取する。

    V.1000mlの水とともに3gNaHCO3を摂取する。

 

C負荷から30分後に完全排尿し、全量を摂取する。尿量、尿比重、pHを測定する。

Dその後、30分おきに120分まで尿を採取し、尿量、尿比重、pHを測定する。

  

   各負荷について時間と尿流量(ml/min)、比重、pHの関係についてそれぞれグラフを作成する。

 

3.与えた実験的負荷と腎臓の反応との因果関係について考察を行う。

 



アドバンスドコース 臨床生理学

「心・循環機能研究法1」

担当:南沢 享

 

到達目標               1)実験動物の生命を尊重し、実験動物に関する倫理的規範を理解する。

                             2)マウスの麻酔法や心・循環機能検査法の原理を理解し、その実際を体験する。

 

 近年における分子生物学の進歩めざましく、遺伝子工学的手法を用いて、心血管機能異常の病態や発症機序に関して、分子、遺伝子levelで理解し、それに基づいて治療を考える基盤が築かれつつある。 特に、transgenic miceやknockout mice に代表されるように、特定の遺伝子に code された蛋白質を実際のmouse の生体内で、過剰発現、欠損、アミノ酸の置換などを起こすことによって、従来の方法論では解明の困難であった循環生理、病理に関する新知見が積み重ねられてきている。 一方、遺伝子工学によって創造されたmouse の病態を正確に評価し、それに意味付けを与えることを可能としているのは、従来から綿々と築かれてきた循環生理を中心とした心血管機能の解析の進歩に負うところが大きい。 現在ヒトに用いられている様々な心血管機能診断法は、装置の小型化 によって、その殆どが mouse にも応用することが可能である。 従って、実験動物の取り扱い、特にマウスの取り扱いに熟知することは、将来遺伝子工学を利用した研究を志すものにとっては、必須となってきている。

 本コースにおいて、mouse に対する心血管機能評価の実際を、見学および実際に施行することによって、その概要を経験してもらいたい。

 

項目

1)     マウスの麻酔法。

2)     マウスの呼吸管理。特に人工呼吸管理法。

3)     マウスに対する小手術手技。

4)     マウスの心電図計測。

5)     マウスの心超音波検査法。

6)     マウスの血圧・心内圧測定法。

7)     マウスの単離心筋細胞機能測定法。

8)     マウスの血管張力測定法。



アドバンスドコース 臨床生理学

「心・循環機能研究法2」

担当:常松尚志

 

1.心電図のとり方

 a.心電図記録に必要な装置

 1)電極

被検者の皮膚に直接装着し、生体内で起っている電気現象を体外へ導出するための誘導電極である。接触抵抗をなるべく小さくする必要があるため、皮膚に密着するように電極板の形状を工夫したり、伝導性の良いペースト(ケラチンクリームなど)を皮膚と電極板に塗ることが多い。肢誘導用電極と胸部誘導用電極がある (図1)。【図は章末に添付】

 2)誘導選択器

電極を通して導出される生体現象を、2点間の電位差として記録するために種々の誘導法が考案され実際に用いられる。これらの誘導を選ぶための装置である。このスイッチを操作して目的の誘導を選択する。

 3)増幅器

心臓の電気的活動はきわめて微小なものである。その変化あるいは時間的推移を記録するために増幅器を用いて電気信号を数千倍に拡大する必要がある。心電図を記録する場所、例えば病院の外来や検査室などでは、コンセントや照明器具から多くの交流雑音が発生し、これが心電図記録の障害になる。心電計に入力されてくる全ての電気信号を均一に増幅したのでは、これらの交流雑音や筋電位を増幅することになり不都合である。そこで心電計に用いられる増幅器は、50Hzまたは60Hzの交流雑音を内部処理で極めて低いレベルに減弱させ、心臓電気現象のみを数千倍に増幅するという差動増幅の仕組みを使っている (図2)。

 4)記録器

臨床で用いられている大部分の心電計は、熱ペンによる直記式記録器を使用している。増幅された心臓電気信号により熱ペンを上下に動かし、感熱記録紙を一定スピードで搬送することにより心電図が描かれる。このほか記録器には、熱ペンの位置を調節するセンタリングツマミ、心電図の振幅をかえる感度調節ツマミ(アテニュエータ、またはセンシティビティ調節装置)、熱ペン温度調節ツマミ、紙送りスピード調節スイッチ、1mV較正曲線用ボタンなどが操作しやすいように組込まれている。

 5)その他

電源コード、誘導(被検者)コード、アース用コードなどが心電図記録に必要である。

 

 b.心電図記録の実際と留意すべき事柄

 1)電源を入れる前に、機器、コードなどをチェックしておく

アースコードの接続、電源コードの接続、誘導コードの心電計への接続、誘導コードの四肢胸部用電極への接続、記録紙の残量。

 2)被検者(患者さん)の状態を把握する

自覚症状(胸痛、動悸など)の有無、緊張し過ぎていないか。

「手足の力を抜いて楽にして下さい」 「ゆっくりと普通の呼吸をして下さい」

 3)電源スイッチをonにし、操作パネル上の以下の項目をチェックする

感度は1になっているか?インスト(下記参照)がonになっているか?記録速度は2.5cm/secにセットしてあるか?

誘導選択器が「STD」あるいは「C」などの位置にあるか?

 4)較正曲線を描いてみる

操作パネル上の1mVと書かれたスイッチを押すと較正曲線が描かれる。感度スイッチが1のとき1mVが1cmの振れになる。感度が1/2であれば1mV0.5cm、逆に感度が2であれば1mV2cmの振れとなる(図3)。心電図波形の大きさ(振幅)を計測する際、この1mVを基準にする。従って各誘導に必ずこの較正曲線を入れる必要がある(図4)。実際の心電図を記録する前に、インストスイッチをonにした状態で1mV較正曲線を入れ、ダンピングの有無、熱ペンの具合、記録紙搬送の状態などをチェックしておく (図5)。

 5)被検者の四肢、胸部に電極を装着する

良い心電図記録を行うには、この電極の装着の仕方が大きなポイントである。

肢誘導用電極の装着部位は、ふつう上肢では手首より数cm上の内側、下肢では足関節より数cm上の内側とする。電極の形態は、皮膚に貼付けるタイプ、マジックバンドで固定するタイプなどがあるが、もっとも一般的なのはクリップ状の電極で四肢を挟むタイプのものである (図6)。

 6)装着した各電極に誘導コードを接続する (図7)

コードの色と記号をよく確かめ、間違いのないように確実に接続する。各コードの色と記号は、どのような機種でもすべて同じに統一されているので、慣れてくれば色だけで区別できるようになる。

 7)誘導選択スイッチを操作して目的の誘導を選ぶ

普通は第I誘導からはじめる。3チャンネル同時記録の心電計では「I, II, II」誘導からはじめる。特殊な場合、例えば「狭心症で特定の誘導にのみST変化が出現し、発作の持続時間が短い場合」には、変化の現れる誘導を先に記録するのが得策である。

 8)インストスイッチを解除する

インストスイッチをonにした状態では、電極からの信号はカットされ、増幅器が保護される。電極が被検者に接続されていないときには、onにしておく必要がある。インストを解除すると、選択した誘導に応じて熱ペンが上下に振れるのが分かる。熱ペンの振れが記録紙からはみ出さないように、センタリングつまみを調節して真中へもってくる (図8)。

 9)「記録」または「RUN」等のスイッチを押し、目的の誘導の心電図を記録する

記録速度は、ふつう2.5cm/secでよい。心電図の振幅が大きすぎて所定の位置に入りきらない場合は、感度を1/2にする (図9)。不整脈などがなければ、ふつう1つの誘導で4〜5心拍記録すれば良い。各誘導には必ず較正曲線「1mV」をいれる。ふつう4〜5心拍記録したところで較正曲線を入れ、その後に1心拍記録してその誘導の記録を終わる。記録を停止するには「停止」または「STOP」スイッチを押す。大部分の心電計は「記録/停止」または「RUN/STOP」が1つのスイッチになっている。

 10誘導を切り換え、同様の操作を行って順次心電図を記録する

記録の順序はふつうI, II, III, aVR, aVL, aVF, V1~V6の順に行う。他の胸部誘導例えばV3R, V4R, V5R, V6RあるいはV7, V8, V9などを記録したい場合は、V1, V2, V3などの通常用いている電極を目的位置にセットして記録すれば良い。最近の心電図はほとんどが6誘導同時記録型であり、記録スイッチを押せば最初に四肢誘導が、続けて胸部誘導が自動的に記録される。感度も自動調整され較正曲線も自動的に記録される。さらには解析まで行ってくれる。

 11異常がありそうな場合

不整脈がある場合には、P波のよく分かる誘導(II, V1など)で1分間(または3分間)記録する。

 12記録の終了

全誘導を記録し終わったら、インストをonにし、誘導選択器をSTDまたはCの位置に戻し、(電源をoffにした後*)電極をはずす。(*最終被検者の場合)

 13測定条件の記入

記録し終わった心電図の余白部分に、ただちに被検者名、年月日、記録時刻、各誘導名などを記入しておく。

 14多人数の測定の場合には5)に戻る

 15清掃と梱包

電極、操作パネルなどの汚れを取る。必要ならアルコール綿で清拭する。コードなど付属品をケースに格納する。

 

 c.記録した心電図の整理・保管

記録した心電図をそのまま放置しては行けない。必ず規定の台紙などに貼り、症例ごとに綴じておくか、50音順あるいは年代順などにファイリングして保管する。この際、表紙にも必要事項を忘れないように記載する。不整脈の際などに長時間記録した心電図は、終わりの方からしっかり巻き、巻物として症例ごとに箱などに入れて保管するのが良い。心電図所見を読む場合、その1枚に含まれる情報ばかりでなく、同一例で記録している他の日付の心電図などと比較することによって、診断に有用な情報量が飛躍的に増加することがあるので、心電図の整理・保管ということは臨床上極めて重要なことといって良い。

 

 d.心電計の故障ならびに記録のトラブルとその対処の仕方

 1)被験者に原因がある場合

皮膚が清潔でない:アルコールなどで汚れを拭き取り、ケラチンクリームを塗布する。

緊張している:検査の説明を十分にし、リラックスさせる。四肢に力が入っている:筋電図が混入するので四肢の力を抜く(図10)。四肢を動かしたり、しゃべっている:安静にし、記録中は話をしない(図11)。

 2)電極やその取り付け方法に原因がある場合

電極のさびや汚れによる接触不良:電極板をサンドペーパーで磨き、その後30分ほど食塩水に浸してから使用する。電極の動揺:電極のネジを締め、誘導コードをしっかりと固定する。また、呼吸の影響で電極が動くときは(特に胸部誘導記録時)呼吸を一時止めて記録する(図12)。ケラチンクリームの塗り過ぎ:ケラチンクリームを必要以上に広く塗ると、特に胸部誘導では、隣同士の誘導がクリームを介してつながってしまう。この時、各々の誘導の心電図波形が相似になることがある。このような場合はいったんきれいにクリームを拭き取り、適量を塗り直す。

 3)熱ペンに原因がある場合

熱ペンの取り付け不良:ペンの取り付けネジが緩んでいないか。

ペン先圧力が大きすぎる:適当なペン圧に設定する。ペン先温度の過不足:適当なペン温度に調整する。ペン先の磨耗および変形:速やかに新しいペンに取り変える。ペン先の汚れ:感熱紙の燃えカスがペン先に付着することがある。このような場合にはペン先を記録紙から離し、温度を最大にして数秒間赤熱させると、燃えカスは完全燃焼して取り除かれる。それでもとれないときはペン先をサンドペーパーで磨く。

 4)記録紙あるいは紙送り機構に原因がある場合

記録紙の装着の不良:記録紙をエッジに対して直角に正しく装着しなおす。

紙送り速度の不良:50と60サイクルの電源周波数を誤用していないか、紙送り機構の調整不良はないか、電源電圧の低下がないかを確認する。記録紙の適・不適:使用している心電計にあった規格の記録紙を使用する。

 5)その他の原因による場合

電源電圧の変動:レントゲン、CT、その他大電力を要する機器からの影響を受けることがあるので、検査の場所を変えるか、それらの機器の電源をoffにする。アースの不良:心電計からのアースを確認する。またベッド(特に金属製ベッド)からもアースをとってみる (図13)。誘導コードの不良:他の誘導コードに交換する。心電計の設置場所が悪い:他の機器と接触したり、コード類を踏んでいないか、心電計が水平に設置されているかを確認する。

 

2.心エコー図のとり方

 a.心エコー図の基礎

超音波とは周波数が20KHz以上の、人間の耳には聞こえない高い周波数の音波である。超音波は体内を伝播したり、体内で反射したりするので、それを利用して体外から体内の情報を得ようとするのが超音波装置である。物理的には音は“波”であり、超音波でも光や電波と同様、その波長(λ)、周波数(f)および伝播速度(c)の間には c=fλ の関係が成立する。波長は、超音波の分解能に影響する重要な因子であり、装置の分解能の限界は波長により規定される。すなわち、高い周波数の超音波を使用するほど装置の分解能は向上する。しかしながら、波長が短いと散乱と吸収により超音波の生体内での減衰が大きく、超音波が到達しにくくなるため深部の観察が困難になる。

超音波診断装置では、超音波の送信は通常間欠的に行われる。すなわち、超音波はパルス波として一定の周期で繰り返し送信され、送信と送信の間は反射して帰って来る超音波の受信を行っている。生体内に放射された超音波パルスは生体組織間で音響インピーダンス(密度と音速の積)の差があるところで一部反射され、他は透過していく。反射された超音波パルスは同じ超音波振動子で受信され電気信号に変換され、増幅、検波され放射信号が得られる。超音波が組織境界までを往復する時間は、探触子と組織までの距離に比例する。すなわち、図14のようにブラウン管上で横軸を時間とし、縦軸を反射波の振幅として観察すると、反射波は深いものほど遅く右方に表示され、横軸は距離に相当する。このような表示法をAモード法と呼び、超音波のビーム方向のどの位置に反射源があるかを示している。Bのような輝度変調表示を行い、時間軸に展開すると(c)のMモード像が得られる。次に探触子をy方向に平行移動させて、それに合わせてブラウン管上の走査線を平行移動させると(d)のような紙面に平行な断層像が得られ、これをBモードと呼ぶ。Bモード法では探触子すなわち超音波ビームをある断面内で移動させるが、これを超音波ビームの走査と言う。

現在の心臓超音波診断装置では通常、25MHzの周波数の振動子が用いられている。心臓の解剖学的特徴のひとつは、心臓が肺や肋骨に囲まれた軟部組織であることである。肺(空気)や骨は超音波を通しにくい組織であり、心臓との音響インピーダンスの差が著しく大きい(空気のインピーダンスは心臓に比べて極めて低く、骨のそれは極めて高い)。このため空気や骨を通った超音波は吸収されるか反射されて心臓に到達できない。このため心臓の検査法としては、肋骨や肺の影響を避けるため、体表の1点から扇形状に操作するセクター方式が適していると考えられ、超音波診断装置の分解能は、超音波ビーム進行方向上の2点を識別する能力(距離分解能:axial resolution)と、これに垂直な2点を識別する能力(方位分解能:lateral resolution)の二つについて評価される(図15)。

 

b.心エコーの記録

1)Mモード心エコー図

心エコー図の記録にあたっては、断層心エコー図で心臓の形態、動態を観察し、次に断層心エコー図のガイド下にMモードビームを設定し、Mモード心エコー図の記録をおこなう。左心系Mモード心エコー図は、胸骨左縁第34肋間に探触子をおき、左室長軸像を描出し、@僧帽弁エコー(図16)、A大動脈弁エコー(図17,18)、B左室エコー(図19)、C三尖弁エコー(図20)、D肺動脈弁エコー(図21)の記録を行う。

 

2)断層心エコー図

@傍胸骨からのアプローチ

@)左室長軸断面 (parasternal long axis view)(図22)

A)左室短軸断面 (short axis view of the left ventricle)(図23)

B)大動脈短軸断面 short axis view of the aorta)(図24)

C)四腔断面 (parasternal four chamber view)(図25)

A心尖図からのアプローチ

@)心尖部左室長軸断面(apical long axis view of the left ventricle

A)心尖部四腔断面 (apical four chamber view)(図26)

B)心尖部短軸断面 (short axis view of the apex)(図27)

 

3)その他

心臓超音波検査ではパルスドップラや連続波ドップラ、カラードップラなどを用いて詳細に心内の圧情報や拡張能、逆流波、シャント血流などを確認することできる。詳しくは成書を参考されたい。



アドバンスドコース 臨床生理学

「メディカルエレクトロニクス」

担当:堀 英明

到達目標:   1)「電気」を扱う上での最低限の「常識」を学習し、医療用電子機器の取り扱いの基本を学ぶ

 

1.はじめに

 市大病院MEセンターでは24種1109台もの医療機器が活躍している。 これらは必要に応じて適宜貸し出されているが、その他生理検査室や外来などの部門、病棟に常備のものもあって、総数は計り知れない。 MEセンターでこれらの使用方法の講習を受けることも可能であるが、あらかじめ基本的な知識を身に付けておくことは日々時間との戦いを強いられる医師にとって重要なことである。また正しい使用法を知っておくことは、@正しい検査値を得る、A機械の寿命を延ばす、B適切な治療を行い・医療過誤を防止する、ために必要である。

 

2.MEとは

 元々は電子工学の手法を用いた医学の研究や臨床応用のこと(メディカルエレクトロニクス、meと略する)だったが、現在は機械工学など工学一般を医学・医療・福祉に役立てる手法や技術を指すように、広く使われるようになってきた。 このための学会として、「日本エム・イー学会」がある。また定義が拡大すると同時に、区分化も進み、Medical ElectronicsMedical Engineeringbiological engineeringbio-medical engineering・生体医工学・医用情報処理学・など様々なサブジャンルが(主に工学系で)生まれてきた。

 医学部の中でも、最初は電気的測定を行ったり、電気的な治療を行うこと、すなわちメディカルエレクトロニクス=MEだったが、現在では、元々MEとは無縁であった輸液(点滴)の自動化とか、血圧のモニタリングなど「電化」が進み、MEの意味が広がってきた。 しかしここでは主にメディカルエレクトロニクスに焦点を絞って解説する。

 

3.me機器にはどんなものがあるか

生体モニタ: 心電計、呼吸機能(スパイロメータ)、血圧モニタ、デジタル体温計、脳波計、筋電計

CT(Computer Tomographyコンピューター断層撮影法):

MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴映像法)・CT(主に水分の分布が判る、proton Nucleic Magnetic Resonance)

ポジトロンCT(Positron Emission Tomography)+サイクロトロン*による腫瘍組織検査

SQUIDSuperconducting Quantum Interference Devices超伝導量子干渉計)*による生体磁気撮像(心筋電流計測による心筋梗塞の診断)

低周波マッサージ(リハビリ)、除細動器、ペースメーカー

血流音分析システム(脳血管・心弁障害検出)

音波歯ブラシ

超音波エコー(腹部・胸部)、超音波砕石(胆石・腎結石)、超音波メス

マイクロ波メス

眼屈折度計(赤外線)、角膜の曲率半径の測定

レーザ(レーザメス、レーザ治療(歯科、眼科、美容、皮膚科、整形外科、癌治療)

単純エックス線撮像、エックス線CT

シンチカメラ、コバルト照射装置

人口心肺、透析装置、補助循環装置、輸液ポンプ

人工呼吸器、ネブライザ(気道加湿器)

酸素(パルスオキシメータ)・炭酸ガス分析

種々の生化学的分析機器(グルコース測定・酵素測定・遺伝子測定など多数)

*市大病院には現在ないもの

 


4.電気の常識

「電気」を測定したり、供給するには最低2本の電線が必要である(無線化されている場合は例外である)。

電線(主に銅線)は電気の良導体であるが、プラスチック・紙・ビニール・ゴム・油脂などは絶縁体である。

人体の内部には体液があって、電気をよく通すが、乾燥した皮膚は絶縁体に近く、電流は流れにくい。 脂質二重層は電気を通しにくい。

コネクタにはオスとメスがあって、一見合っているように見えるが、実際は違う場合がある。 合わないものを使うと接続していなかったり、コネクタを壊すことがある。

機器の動作が異常な場合、かなりの頻度で「接触不良」が原因である。

コードやコネクタの色分けにだまされるな。

電気機器(代表例としてパソコン)は、電源を切って再投入する場合、約5秒程度時間を置くのが良い。

  

 

5.電磁波について

電流が存在すれば必ず磁力と電波が発生する。磁力波と電波はベクトルが90度異なるだけで、常に同時に発生し、まとめて電磁波という。

電磁波の波長が短くなると、「光」になり、巨視的な電流は発生しなくなる。さらに波長が短いと「放射線」の性質を示すようになる。

電磁波は波長(周波数)によって区分され、生体に与える影響が異なる。me機器では何らかの電磁波を利用することが多い。電磁波の波長別の性質を知ることが重要である。

 

テキスト ボックス: 長波(LF)
中波(MF)
短波(HF)
超短波(VHF)
極超短波(UHF)
センチ波
ミリ波
   



6.電気的測定のデモンストレーションと実習

−皮膚電気抵抗変化による発汗の測定−

 

a.目的

 シラバス69頁に記されているように、手掌では精神性発汗があると云われているが、これが真実であるか否か検証する。 また前腕部で精神性発汗があるか観察する。

 ペンレコーダーの使用法など、電気的な測定方法の基礎を学ぶ。

 

b.発汗測定の臨床的な意義

 臨床的には発汗の機器測定は行われていないが、患者と握手したり、皮膚に接触することによって定性的に観察することは日常的である。 発汗は自律神経機能の一つのバロメーターであり、多汗や無汗は何らかの異常の存在を疑うに充分である。 精神性発汗はいわゆるウソ発見器の主要な測定項目である。

 

c.測定原理

 発汗に伴う皮膚電気抵抗変化(GSR、Galvanic Skin Response)を測定する。

 発汗に伴って、皮膚の電気抵抗は一過性に低下する(抵抗の逆数である電気伝導度は上昇する)。 シリカゲル等を用いた直接的な測定による発汗量の変化と電気伝導度の変化は完全に一致するわけではないが、発汗の増減を簡便に測定できる手段として皮膚電気抵抗変化はよく使われている。

 

d.使用する装置

 アンプ付き2チャンネルペンレコーダー(ペン書きオシログラフ、ペンレコ)

 脳波用皿電極2組(銀製の金属電極、塩化銀コートされている)

 カージオクリーム(心電図測定用の食塩入りクリーム、接触抵抗を下げる)

 GSR測定用ホイートストンブリッジ回路

 電気抵抗には負の値が存在しないので、抵抗値が変化する場合、その変化はある基準値(ゲタ、offset)に対しての増減になる。 小さな増減を増幅(amplify)して観察したい場合、直流的な増幅を行うと、ゲタも増幅されてしまうが、ゲタを観察しても意味は無いし、増幅器の特性上無駄ないし有害である。 ホイートストンブリッジ回路は電気的にゲタを差し引いて、変化のみを取り出し、擬似的に交流化して観察を容易にするために用いられる。

 

e.被験者、受講者の準備

 被験者は当日若干名募集します。 学生諸君は「暗算」の適切な問題を当日まで考えてくること。

 

f.観察項目

1.両側の手掌にそれぞれ1組の電極を貼り、刺激によるGSRの変化と手掌間での差の有無を観察する。

最初に特に刺激を与えないまま、数分間記録する(自然発汗を観察する)。

次に音刺激・光刺激・痛覚刺激・暗算出題などを行い、GSRを観察する。

波の左右同期性を確認せよ。

波の出現頻度・振幅・レベルの変動などを指標として発汗量の増減を推量する。

紙送り速度を速くして(5mm/sec程度)、反射時間(刺激開始から波の立上がり時期まで)を求める。