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遺伝子の転写制御とは何か?

生物の設計図、遺伝子(DNA)
 1個の受精卵はすべての完全な遺伝情報を持っています。 人では受精卵は最終的に60兆もの細胞に分裂します。これら細胞の一つ一つには 受精卵と同じすべての完全な遺伝情報が含まれています。そして細胞は持ってい る設計図は同じでも、脳や肝臓、心臓などそれぞれ異なった臓器をつくるのです (これを分化という)。つまり同じ設計図から、異なった臓器が作られます。 そのために細胞は、脳では脳をつくるために必要な、 肝臓では肝臓を作るために必要な部品(タンパク質) を適切なタイミングで読み取るための仕組みが備わって います。これが転写制御です。

転写制御機構の模式図
遺伝子発現は多くの種類のスイッチによって制御されています。 すべてのスイッチがオンになると転写を行う工場が稼動します。
本研究室では、生体の転写制御機構(スイッチのオン、オフの メカニズム)をタンパク質の分子構造のレベルから理解するこ とを目指しています。
転写制御機構を分子レベルで解析する
タンパク質や核酸を結晶化し、X線を照射することによって原子レベルでの立体構造を得ることが できます。遺伝子の変異ががんをはじめとした多くの病気の原因となることはよく知られています。ではなぜ、遺伝子が変異するとなぜ病気になるのでしょうか?実際、遺伝子が変異しても病気にならない場合もあります。タンパク質の立体構造からは、遺伝子の変異がもたらす、疾患発症機構をはじめとした多くの情報が得られます。
また、核磁気共鳴法を用いることによって分子の動的な性質を調べることが可能になります。


Runx1(CBFα)-CBFβ-DNAの転写制御機構
転写制御因子Runx1とCBFβは血液をつくる重要なスイッチであり、これらの異常が急性白血病を引き起こすことが知られています。本研究によってRunx1の転写制御機構と発がんの分子メカニズムが始めて明らかになりました。
Core binding factor(CBF)は、Runx/AML/CBFA/PEBP2a(aサブユニット, 以下Runx1)とCBFβ/PEBP2b(bサブユニット, 以下CBFβ)からなるヘテロダイマータンパク質であり、急性白血病や鎖骨頭蓋骨異形成症を引き 起こす転写調節因子として知られています。Runx1はRuntドメインと呼ばれる領域でCBFβおよびDNAに結合します。一方、CBFβは直接DNAと結合せず、 Runx1とヘテロダイマーを形成して、Runx1のDNAに対する結合活性を上昇させます。

本研究室では、Runx1-CBFβ-DNA複合体やRunx1-DNA複合体の結晶構造解析を行い、Runx1-CBFβ間の水素結合ネットワークがアロステリックに作用してRunx1-DNA間の特定の水素結合を安定化するという結合制御機構を明らかにしました。

急性白血病を発症させるアミノ酸変異部位と発症機構
白血病との関わりでは、Runx1がDNAの主溝側から塩基を認識する部位、およびRunx1がDNAの副溝側から相互作用し、CBFβによってRunx1-DNA複合体が制御される部位にアミノ酸変異が集中しているのが分かります。これらの変異では、Runx1とDNAとの結合のみが障害され、CBFβとの結合は保たれています。もともと細胞質中に存在するCBFβは、この異常タンパク質によってトラップされてしまい、正常に機能することが出来ません。そのため、ドミナントネガティブな様式の白血病の発症をとることが予想されます。今回の研究は、白血病発症機構について、分子構造的基盤を与えたことになります。
c-Myb-C/EBPβ-DNA複合体の転写制御機構
転写は複数の異なるスイッチ(転写制御因子)が、単にオン、オフになるだけではなく、お互いに相互作用することによって複雑に制御されています。離れた転写制御因 子が結合し、DNAのループを形成することを分子レベルで初めて証明しました。

c-MybとC/EBPβもRunx1/AML1やCBFβと同様、血液を作るのに必須のスイッチです。 これらの異常はやはり白血病を発症させます。その原因となるがん遺伝子は、c-Myb に変異が導入されたもので、v-Mybと呼ばれています。

c-MybとC/EBPβの相互作用を示す結晶構造
結晶構造から、プロモーターDNA上の離れた領域に結合しているc-Myb とC/EBPβが、介在しているDNA領域のループ形成を伴って相互作用する 可能性が示されました。がん化型タンパク質AMV v-Mybではこの相互作用は見 られません。

実際にループ形成が起こってい るかどうか、原子間力顕微鏡 (AFM; atomic force microscopy) を用いて直接、分子レベルで観察 したところ、ループが観察 されました。