第104回日本精神神経学会学術総会報告(杉浦寛奈、中川牧子、上原久美、清水玲那)
今学会は、多岐に渡る精神医学分野の話題が集結し、方法も講演やシンポジウムから研修までさまざまである。11会場で、同時に進行しており、興味を一つに絞るのが大変である。また、参加者の人数も多く、立ち見で聴講する姿もみかけたほどである。大勢の参加者にも関わらずというか、大勢の参加者だからこそというべきか、学生時代や研修医時代に御世話になった先生方に、偶然お会いできたのも、大変嬉しかった。
今回の学会において、私が最も興味をひかれたのは、若手精神科医の研修と交流の意義に関するシンポジウム、アジアの卒後研修に関するワークショップ、アジアの行動制限に関するワークショップである。
若手精神科医の研修と交流の意義に関するシンポジウムでは、Japan Young Psychiatrists’ Organization (JYPO) の活動紹介、その主体の活動であるCourse
for the Academic Development of Psychiatrists (CADP) の紹介、新臨床研修制度での経験、森田療法での経験とその精神療法への興味を持っての日韓合同研修会での経験、JYPOで学んだことを国際活動につなげた経験、がそれぞれ発表された。自分の経験が重なる部分もあれば、自分が今後目指したい姿もみることができた。私は、この内、CADPの紹介に関しての共同演者となっており、また来年2月に開催される第8回CADPの副実行委員長を担っている。若手からのCADP参加にあたっての具体的な質問も、先輩医師からの叱咤激励の言葉も、今後の大きな励みとなった。
アジアの卒後研修に関するワークショップでは、インド、イラン、台湾、マレーシアからそれぞれ報告があった。各国ともに精神科医専門医になるために制度が設けられており、一般医より専門医となる方が長い道のりであることは共通のようであった。また、元宗主国の影響も大きいようであった。インドでは地域差が大きいことや外国へ就職する医師の人数が多いこと、マレーシアでは、スーダンやカンボジアなどの外国人医師も混ざって精神科医専門教育を受けていることや精神科専門医の試験官にオーストラリア人精神科医が参加することなどが、それぞれ印象的であった。
アジアの行動制限に関するワークショップでは、インド、バングラデッシュ、タイ、マレーシアからそれぞれ報告があった。インドでは、10年程前まではかつてイギリスが遺していった所謂asylumが中心のようであったが、現在近代化が図られており、精神病院は閉鎖し、総合病院精神科のみの病床へと進んでいるとのことである。しかし、非自発的入院を規定する法律はなく、また、精神医療一般に関する法律も地区によっては以前のlunatic actを使用しているとのことである。また、会場からの、「隔離と身体拘束のどちらがより強度な行動制限と考えるか」の質問に対して、「隔離」と回答された点も日本との違いを感じた。主には、インドの隔離室の劣悪な環境にあるようである。タイとマレーシアの若手の先生はそれぞれが所属する大学病院での身体拘束の調査結果を発表した。会場からの質問に対して、二人は今までに、隔離室をみたことがないと回答し、会場に同席していた先輩医師もしくは同国の医師がそれぞれの隔離室の状況を説明していた。地域差、施設差および世代差を感じさせるものであった。今年10月に開催されるPacific Rim College of Psychiatry (PRCP) に先立ち若手精神科医の研修会が開催される予定である。海外から30人の参加を見込んでいる。その中で、私は、非自発的加療に焦点をあてた症例検討会の企画を担当している。そのため、行動制限のワークショップはとりわけ興味深く、実際、今回の参加者に、PRCP用の質問紙作成にあたっての事前調査にも協力頂き、意見も伺った。国内および国外にても大変関心の高い分野であり、今回のワークショップとPRCPを足がかりに、国内から国際に、紹介や症例検討から、多施設共同研究へと発展していく可能性が見いだせた点も大変有意義であった。
これまでは、学会では広く聴講し、自分の興味の分野を探す、といった姿勢であったが、興味の方向が明確になってきており、掘り下げていく視点も生まれてきた。日々の診療に一つ一つ丁寧に取り組んでいくとともに、腰を据えて取り組むテーマも大切にしたいと思う。
横浜市立大学附属市民総合医療センター・救命救急センター/総合診療科 シニアレジデント 杉浦寛奈
今回の学会では、2003年からの5年間にわたる救命救急センターの自殺未遂者データについて発表を行った。私の口演したセッションでは、東京武蔵野病院、県立広島病院、東京医科歯科大学の先生方による、ツインスーパー救急システムや、自殺企図者の実態についての口演を聞かせて頂いた。 自殺未遂者の精神科受診歴については、多施設でデータとしてとられているが、結局のところ、受診に結びついたとしても、精神科で処方された薬剤を過量服薬して搬送される方が多いのも事実であり、若年女性では精神科受診率が高いと同時に自殺企図を繰り返すケースも多い。こうした実態を踏まえた上で、精神科における自殺予防対策を行っていく際には、精神科受療維持の意味付けを一つの課題として考えていく必要があるだろう。今回のセッションにおける質疑応答の中で、そうしたケースでも一つの精神科機関でフォローすることが大事である(フォローしないことで、将来的には他機関を受診し複数受診するようなケースも多く、根気強く受診を継続するためのサポートは必要である)というものがあった。そうした意識で患者さんを責任を持って支えていく事が大事であると同時に、患者さん自身が、所謂ドクターショッピングを繰り返すケースもある。そうした時に役立つのが地域連携である。地域での医療ネットワークの必要性は各人が認識しているところではあるが、未だ不十分である。こうしたネットワークが今後構築されることで、複数受診など、医療事故を招くような事態は免れるだろう。
他にも多数のセッションがあり、どれを聞いてよいのか迷うほどであった。しかし、自分の興味のあるセッションを聞くのも勉強になるが、たまたま通りがかりに覗いたセッションで思わず引き込まれる内容のセッションも多く、臨床医として偏らない知識を吸収していくことの必要性が痛感できた学会であった。
横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門 大学院博士課程3年 中川牧子
本学会は国内で最大規模の精神科学会であり、数千人の参加者が全国から集まった盛大なものとなった。
3日目の本学会で私は研修コース「精神科医からの発信――効果的なプレゼンテーション」の講師を行い、またシンポジウム「若手精神科医の研修と相互交流の意義と課題―若手精神科医の学びの場、支えの場―」の座長、シンポジストとなった。精神医療をとりまく環境は大きく変化しており、特に精神医療の分野を学び始めたばかりの若手にとって研修環境の変化は将来のために大きく影響するものである。そこで、実際に研修を受ける立場である若手精神科医の立場から現状と課題について考えるべくシンポジウムを企画した。
シンポジウムではまず慶応大学の中川敦夫先生が2002年の世界精神医学会と日本精神神経学会の合同総会において、海外から100人を越える若手精神科医を招待して多くの企画を実践した経験を話し、若手の相互交流の重要性や研修への意欲について触れ、その実践の場として日本若手精神科医の会(JYPO)の紹介をした。次に日本大学の松本良平先生から、JYPOが毎年開催している研修コースについて紹介し、学術的発展を目指そうと呼びかけた。3番目に平久奈菜子先生が、専門医制度における研修項目の一つとして挙げられている森田療法を研修した若手の立場から内容を紹介し、また韓国での伝統的精神療法の紹介、そして精神療法への思いを語った。次に小川雄右先生が熊本で先輩医師たちの助けを借りながら地域、日本にネットワークを広げ、研鑽を積んでいる経験を紹介した。最後に現代表である私からそういった研修について全国の若手と共有できる場としてJYPOの紹介をした。JYPOはこの2008年5月、公益性の高い活動を目指してNPO法人を設立し、全国の若手と共に多くの活動を企画している。
今回の学会では、関東NTTの秋山剛先生、慶應大学の藤澤大介先生、慈圭病院の佐藤創一郎先生、札幌医大の舘農勝先生と「効果的なプレゼンテーション」の研修コースを企画した。これは「学会発表の仕方」についてJYPOで研修している経験を踏まえて実施し、参加者からも発展的な意見が多く出され、大変有意義な研修コースとなった。今後こういった企画などを通して若手精神科医の学術的発展のために少しでも寄与できれば幸いである。
3日目の「先輩に聴く」では、NPO法人JYPOの顧問である佐藤光源先生の精神医療への取り組みについて拝聴した。Schizophreniaの呼称が「統合失調症」となった背景について、統合失調症をもつ人びとの家族の要望を受けて学会が呼称変更にこぎつけたこと、実現には何年もの時間を要したこと、その活動が「呼称変更」にとどまらず、精神医療に対する社会の理解を促したことなど多くの変化をもたらしたことを知った。呼称変更の直後に精神科医になり、大きな変化の只中で精神科医としての研修を始めた。その後次々と非定型抗精神病薬が認可され、先輩医師らと「新世代」の抗精神病薬について勉強しながら最適な治療法を模索したことは記憶に新しい。また、治療期間や入院期間が短縮され、自立支援法が始まり、社会の中で統合失調症をもつ人が生活しやすくなっていく姿を目にして、精神医療のもつ大きな可能性を感じながら臨床をしている。こういった変化の起爆剤として「呼称変更」があり、そこから生まれた大きな流れが社会にインパクトを与えたことを知り、改めてその功績に感銘を受けた。
横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門 大学院博士課程4年 上原久美
今回初めて医学系の学会に参加し,その規模の大きさに大変驚きました.いくつかのシンポジウムを聴講させていただいたのですが,中には満席となって立ち見になるほど人が集まることもありました.
今回私が学会に参加した目的として,現在注目されている研究を知り,そのアプローチ方法を見ることにありました.それも私が精神医学を学び始めてまだ2ヶ月目のことであり,知識も大変未熟なままでの参加となってしまったからです.そのため,病名が講演題目に入っているシンポジウムを主に聴講しました.強迫性障害,統合失調症,発達障害と,どのシンポジウムでも,脳機能,脳構造を取り上げた発表が行われ,精神医学と脳が密接に関連しているということを再認識することができました.私は現在,脳画像研究チームに所属していることもあり,よりいっそう研究に対する意識を高めることができました.また,冒頭で概説を聞くこともできましたので,初心者である私にとっては導入しやすく,大変勉強になりました.まだわからないことばかりですが,これから積極的に大会に参加し,学習して,研究を進めていきたいと思います.ありがとうございました.
横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門 大学院修士課程1年 清水玲那