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6. 赤ん坊が乳を吸う

 生まれたばかりの赤ん坊が教えられないのに乳を吸うことができるのはなぜか?母親が赤ん坊がうまれてから2〜3日の間に飲ませる乳、初乳は其れ以後に分泌される乳とは成分が異なっている。初乳は生後12時間くらいから分泌されはじめるが、生まれたばかりの赤ん坊が最初から乳を上手に吸えるわけではなく、繰り返し与えているうちに学習し上達していく。母親が最初に赤ん坊に乳を口にふくませる際に観察される反射は「吸綴反射」および「口唇探索反射」である。そうした原始反射に加え嗅覚や触覚機能が働き乳をうまく探し当て口にくわえることが自然にできるようになると考えられる。乳の飲み方にも赤ん坊の個性があらわれるという。しかし生後一週の間は、同じ赤ん坊でもその飲み方が安定しない。だんだん安定してその赤ん坊独自の乳の飲み方ができあがっていく。こうしたことからも学習過程が存在することは明らかである。

 さて乳を飲むという行動が予めどの程度、先天的にプログラムされた行動なのか、という考察に入ろう。上記の吸綴反射の反射経路は、救心路が三叉神経、遠心路が顔面神経である。口唇探索反射については、探索行動自体を反射と見なすべきか否かの議論もあり、その神経回路は不明である。
  嗅覚や味覚による探索行動の基盤にはアメーバ、酵母、線虫などから見られる極めて基本的なプログラムである。酵母や線虫にはある特定の化学物質の濃度勾配に従って誘引されることが知られている。こうした現象は他の様々な生物にも見られることから基本的な生物現象の一つと言える。粘菌はこうした化学走性の良いモデルである。例えば粘菌の cAMP への走化性には PIP2 と PTEN という分子の局在性と走化性の方向とが見事に一致するという1)。つまり特定の細胞内分子の片寄った分布が運動の方向性を決めることが示唆されるわけであるが、そもそもどういった仕組みでこうした細胞内分子の片寄りができるのかはまだ良く解明されていない。線虫は NaCl やdiacecyl などの水溶性、脂溶性分子に対して走化性を示す。この場合の走化性は粘菌とは異なり、知覚神経における化学受容と特定の神経回路を介するより複雑な運動を意味する。線虫ではレーザーによって特定の細胞のみを破壊することができ、また様々な変異株を利用できるので、現在ではある特定の分子にどのような神経が関与し、またどのような分子が関わっているのかが体系的に調べられている2)。

 哺乳類動物の特徴の一つは、乳児の両親による保育と母乳の吸乳である。最近ウサギにおいて興味深い知見が発表された。生まれたてのウサギの子が乳房に吸い付くようにするフェロモンの一種が見つかったのである3)。フェロモンの効果は学習に依存しないとされるので、この事実はやはり赤ん坊が乳をする行為は生得的であることを示唆する。同定されたフェロモンは2?メチルブットー2?エナール (2-methylbut-2-enal, 2MB2) というもので、母ウサギの乳腺で合成、母乳中に放出され、子ウサギを母ウサギの乳首に引き付けて吸乳するようにさせるという行動を誘発する。哺乳類においてフェロモンの位置づけについては論争があるが、2MB2 はフェロモンの定義から導かれる5つの規準を満たすという。すなわち1)化学的単純性 2)受け手に明確な形態学的あるいは行動上の応答を惹起すること 3)刺激と応答に高い選択性が存在すること 4)種特異性があること そして5)前もった刺激を必要としないこと、である。こうした最近の知見を踏まえると、赤ん坊は、最初は学習とは無関係に、フェロモンのような化学物質を感知することによって上手に乳を吸う練習のきっかけをつかむと考えるのが妥当であろう。

文献
1) Iijima M, Huang YE, Devreotes P. Temporal and spatial regulation of chemotaxis. Dev Cell 2002; 3:469-78.
2) Mori I. Genetics of chemotaxis and thermotaxis in the nematode Caenorhabditis elegans. Annu Rev Genet 1999; 33:399-422.
3) Schaal B, Coureaud G, Langlois D, Ginies C, Semon E, Perrier G. Chemical and behavioural characterization of the rabbit mammary pheromone. Nature 2003; 424:68-72.

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