疫学

表2

医学中央雑誌で、慢性、偽性腸閉塞をキーワードとして全年(1983年~2009年)検索して104報、121例が得られた。得られた報告例を集計すると以下のようになり、(表2)に示す。患者は0(出生直後)~84歳で、どの年齢層にも起こる。平均年齢は43.6歳、中央値は47歳であった。男性49人、女性72人と女性がやや多い傾向がみられた。家族歴がはっきりしているものは5例(4.2%)であった。

続発性の誘因のうち、判明しているものとしては、全身性硬化症(以下SSc)が19例(16%)と最も多く、ミトコンドリア脳筋症6例(5.2%)、アミロイドーシス4例(3.5%)、甲状腺機能低下症3例(2.6%)、Von-Recklinghausen病2例(1.7%)、筋強直性ジストロフィー2例(1.7%)であった。合併症としては、巨大膀胱、神経因性膀胱などの膀胱機能障害が20例(17%)に認められた。

慢性偽性腸閉塞症(CIPO)の内科系調査の報告と新たに提唱された診断基準案についての検討

飯田 洋(いいだひろし)稲森正彦(いなもりまさひこ)坂本康成(さかもとやすなり)1)藤本一眞(ふじもとかずま)2)中島淳(なかじまあつし)1)

1) 横浜市立大学附属病院 消化器内科
2) 佐賀大学医学部消化器内科

本邦の内科系調査

A.研究方法

平成21年12月より平成22年2月にかけて日本消化器病学会に所属する378施設に対してアンケートを送付し、まず本疾患に対する認知度ならびに症例経験の有無を調査し、経験を有する施設には症例調査票の記入を依頼した。平成22年2月19日時点で回答を締め切り集計ならびに統計解析を行った。受診時の病歴、病型(原発性、続発性)、画像検査結果、選択した治療法などを集計した。

B.結果
  1. アンケート回収状況:アンケートを送付した378施設の内、216施設(57%)より回答を得た。本疾患について『認知している』としたのは200施設(92%)であり、そのうち103施設(51%)が『症例経験あり』と回答した。『認知していない』と回答した施設で『症例経験あり』とした施設はなかった。CIPOを認知している200施設における経験症例数は、0例が97施設(48%)と最も多く、1例が52施設(26%)、2例が17施設(8%)、3例が7施設(3%)と続いた。27例を経験した施設が1施設みられた。
  2. 平成22年2月19日時点で213症例が集積された。性別は男性79例(37%)、女性83例(38%)、不明51例(23%)であった。
  3. 病型:返送された213症例のうち詳細を判別できる188例に関しての集計では、原発性が132例(61%)、続発性が52例(24%)、不明が5例(2%)であった。続発性の内訳はSSc 23例(44%)、non-SSc 29例(56%)であった。non-SScとしては、皮膚筋炎4例(7%)、MCTD3例(5%)、シェーグレン症候群1例など膠原病が目立ち、他にアミロイドーシス2例やその他がみられた。
  4. 受診時年齢:男女とも60代が最も多かった(男性22%、女性24%)。
  5. 臨床症状:前述の188例に関して腹痛、嘔吐、腹部膨満、腸閉塞症状について集計したところ、腹痛(67%)、嘔吐(51%)、腹部膨満(96%)、腸閉塞症状*1(69%)であり、腹部膨満がかなり高率にみられた。
  6. 画像検査所見陽性例は130例(96%)、陰性例は3例(1%)、不明が4例(2%)であった。
  7. 病悩期間6ヶ月以上と6ヶ月未満でみると、前者が89%を占めた。
  8. 受診後に選択された治療(複数回答可)は、全213例中、食餌療法が118例(55%)、薬物療法が157例(73%)、手術治療38例(17%)、その他47例(22%)であり、治療なしも1例みられた。薬物治療の内容はクエン酸モサプリド、乳酸菌製剤、大建中湯、酸化マグネシウムなどが多く、またプロトンポンプ阻害剤など制酸剤の投与をしている例もみられた。その他47例のうち、在宅中心静脈栄養法が35例(74%)で、他に内視鏡的減圧、イレウス管留置、浣腸などが少数みられた。

*1 腸閉塞症状とは、腸管内容の通過障害に伴う腹痛、悪心・嘔吐、腹部膨満・腹部膨隆、排ガス・排便の停止を指す。

厚生労働省研究班2009年国内調査

内科系調査の報告と診断基準案

平成21年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業、慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究班において診断基準案が提唱された。研究報告書によると分担研究者である本郷らが、本邦、海外ともに確立された診断基準案がないため、本邦や海外の症例報告と教科書を参考に暫定の診断基準案を作成した。診断にあたり特殊な検査を採用すると実地診療での有用性が少なくなるので症状からアプローチするように配慮されている。またマノメトリーなどの本邦では普及していない検査法を使わなくても診断できるように配慮されている。暫定の診断基準案を分担研究者、研究協力者にe-mailにて送付し意見を募り、診断基準案を本郷らが策定した。

前項の内科系調査で返送された213症例のうち詳細を判別できる188例について診断基準案との整合性について検討した。病悩期間は、167例(89%)が6ヶ月以上の病悩期間という基準を満たしていた(表3)。受診時の症状は、腹痛は127例(67%)、腹部膨満は181例(96%)の症例で認められた(表4)。診断基準案である、腹痛または腹部膨満を認めた症例は185例(98%)であった。画像所見では、181例(96%)の症例で拡張が認められ、診断基準案を満たしていた。以上より、中島らの診断基準案を満たすものは164例であり、感度は87.2%であった。

おわりに

報告書によるとCIPの消化器病専門施設での認知度は92%と決して高くない。一般の内科医、外科医の認知度はさらに低いであろう。また、海外での大規模疫学調査や明確な診断基準がないことを考慮すると、海外での認知度もそれほど高くないと考えられる。

CIPの本邦の内科系調査において集積された症例において、中島らの診断基準案は感度87.2%と有用であった。日本国内でのCIPの認知度や診断基準案の実用化に向けて、普及活動が重要である。また中島らの診断基準案が海外で報告されているCIPに対してどれくらいの感度を持っているかを調べる必要がある。海外のCIPの研究者と協議し、診断基準案をより実用的かつ国際的にも通用するものにしていく必要がある。

平成22年度 慢性偽性腸閉塞の改定診断基準案

疾患概念

消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管蠕動障害(腸管内容物の移送障害)を認めるもので、慢性の経過を経るもの。

診断基準

6か月以上前から腸閉塞症状があり、そのうち12週は腹部膨満を伴うこと。

画像所見

  1. 腹部単純エックス線検査、超音波検査、CTで腸管拡張または鏡面像を認める。
  2. 消化管エックス線造影検査、内視鏡検査、CTで器質的狭窄、あるいは閉塞が除外できる。

付記所見

  1. 慢性の経過(6ヶ月以上)で15歳以上の発症とする。*先天性・小児は別途定める。
  2. 薬物性、腹部術後によるものは除く。
  3. 原発性と続発性に分け、原発性は病理学的に筋性、神経性、カハールの介在神経の異状による間質性、混合型に分けられる。続発性は、全身性硬化症、パーキンソン症候群、ミトコンドリア異常症、2型糖尿病などによるものがある。
  4. 家族歴のあることがある。
  5. 腸閉塞症状とは、腸管内容の通過障害に伴う腹痛(67%)、悪心・嘔吐(51%)、腹部膨満・腹部膨隆(96%)、排ガス・排便の減少を指す。食欲不振や体重減少、Bacteria overgrowthによる下痢・消化吸収障害などをみとめる。
  6. 障害部位は小腸や大腸のみならず食道から直腸に至る全消化管に起こることが知られており、同一患者で複数の障害部位を認めたり、障害部位の増大を認める。また、神経障害(排尿障害など)、及び精神疾患を伴う事がある。

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