診断

厚労省研究班診断基準と診断のための各種検査法

厚労省研究班により提唱されたCIPOの診断基準を下記に示す。CIPOに特有な血液検査所見はなく、細菌の異常繁殖による吸収不良や、摂食不良による栄養障害により、貧血、低カルシウム血症、低コレステロール血症、葉酸欠乏、鉄欠乏、低アルブミン血症などがみられることがある。

胸腹部単純X線所見では、急性期は小腸から大腸までガスで充満する所見を呈し、機械的閉塞との鑑別は困難である(図1:a,b)。機械的閉塞の有無についての診断は、消化管穿孔を避けるため、水溶性造影剤であるアミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン(ガストログラフィン®)を用いた消化管造影検査を行う。病変が十二指腸に存在する時には、胃排出遅延と関係していると言われる巨大十二指腸症がみられることがある。一部では空腸憩室がみられるが、CIPとの因果関係は不明である。

腹部X線CT(図1:c)に示すが、X線CTは閉塞機転の有無の確認、拡張小腸の特定の他、腹腔内悪性腫瘍などの腸閉塞の原因検索にも有用である。厚労省研究班では腹部単純XPやCTなどによる消化管の拡張を診断の必須条件とした。

欧米では、非侵襲的な胃腸運動機能検査として99Tc標識低脂肪食による胃シンチグラフィ検査や、腸管蠕動障害のパターンを調べるマノメトリーを用いることがあるが、本邦では検査可能な施設は極めて限られている上に再現性や特異性の問題点があることから診断基準には掲載していない。

組織学的検索として、小腸全層生検は病態解明につながる可能性があり、外科手術が必要となり行われたならば、施行すべきであると欧米では言われているが本邦では実施が困難である。

近年MRIの分野でシネMRI技術が非常に進歩してきており、このシネMRIを腸管に応用することで、腸管の運動、特に小腸の蠕動運動や胃の運動、腸管の拡張程度、癒着、腸管内容物などが非常に詳細に分かるようになってきた。今後は診断基準とともに本邦で広く利用できるMRI検査を用いた診断が望ましいと考える。

最後に、本疾患の診断において最も重要なことは、機械的閉塞機転が否定された時点では少なくとも本疾患の存在を念頭に置くことである。

国際的批判に耐えられる診断基準案の改定のこころみ

2009年研究班による全国の消化器内科専門医対象の我が国初の全国調査により我が国における当該疾患の実情がおぼろげながらわかってきた。全国調査によると、解答を得た施設の約半数で症例の経験があり、決して極めてまれな疾患ではないことがわかった。今回当該疾患に関して過去5年に熱心に論文報告を行っている世界の研究者6名に日本の診断基準案に関する批判をいただくことができた。海外の研究者からは1.症状で重要なのは腹痛でなく腹部膨満、2.Ogilvie症候群回復後の再発もあるので定義から省くべきでない、6か月以内の急性から慢性に移行する症例もあるので6カ月以内を排除しない、3.腸管拡張は必ずしも確定診断の必要条件として位置付けられてはいない、など多くの意見をいただいた。国内調査、および海外の意見から今回新たに診断基準案の改定を行った。厚労省研究班では腹部単純XPやCTなどによる消化管の拡張を診断の必須条件としたが海外の研究者からの意見で消化管拡張所見のない症例もあるとのご指摘を受けたが、そのような稀な症例まで考慮すると一般実地診療では有用性の低い診断基準となるためこの項目は必須と考えた。一方症状に関しては診断基準作成時は腹痛を重視したが、国内調査の結果、腹部膨満が96%に認められ、腹痛の67%を大幅に上回った。診断基準から腹痛を除き腹部膨満のみとすると感度は上がるが、慢性便秘などが間違って本疾患と診断されてしまう危惧があるが「6カ月以上前からの腸閉塞症状」と「画像診断での腸管の拡張および鏡面像」の項目で大半は除外できるものと考える。

我々が厚労省研究班で作成した本邦初の診断基準案はわが国において実地医家が本疾患を認知できるよう、また容易に診断でき専門機関へ紹介できるよう作成されたものであるが、本邦での国内調査をもとにより実態を反映し、かつ感度特異度の高いものにしなければならない、また、いわゆる「ガラパゴス化」に陥らないように、本邦独自の臨床実態を反映する診断基準ではあるが、海外の当該領域の専門家委の批判を受けてより国際的に通用するものに改定しなければならないと考えられる。このような本邦での当該疾患での診療基盤の整備の延長線上に国際的データーの共有を含めた患者の利益につながる研究が開花するものと確信するものである。

平成22年度 慢性偽性腸閉塞の改定診断基準(案)

疾患概念

消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管蠕動障害(腸管内容物の移送障害)を認めるもので、慢性の経過を経るもの。

診断基準

6か月以上前から腸閉塞症状があり、そのうち12週は腹部膨満を伴うこと。

画像所見

  1. 腹部単純エックス線検査、超音波検査、CTで腸管拡張または鏡面像を認める。
  2. 消化管エックス線造影検査、内視鏡検査、CTで器質的狭窄、あるいは閉塞が除外できる。

付記所見

  1. 慢性の経過(6ヶ月以上)で15歳以上の発症とする。*先天性・小児は別途定める。
  2. 薬物性、腹部術後によるものは除く。
  3. 原発性と続発性に分け、原発性は病理学的に筋性、神経性、カハールの介在神経の異状による間質性、混合型に分けられる。続発性は、全身性硬化症、パーキンソン症候群、ミトコンドリア異常症、2型糖尿病などによるものがある。
  4. 家族歴のあることがある。
  5. 腸閉塞症状とは、腸管内容の通過障害に伴う腹痛(67%)、悪心・嘔吐(51%)、腹部膨満・腹部膨隆(96%)、排ガス・排便の減少を指す。食欲不振や体重減少、Bacteria overgrowthによる下痢・消化吸収障害などをみとめる。
  6. 障害部位は小腸や大腸のみならず食道から直腸に至る全消化管に起こることが知られて おり、同一患者で複数の障害部位を認めたり、障害部位の増大を認める。また、 神経障害(排尿障害など)、及び精神疾患を伴う事がある。
a.胸部単純X線写真 b.腹部単純X線写真 c.腹部単純CT写真での腸管拡張像
a.胸部単純X線写真 b.腹部単純X線写真 c.腹部単純CT写真での腸管拡張像

図1(a~d).慢性偽性腸閉塞症の画像所見(臥位正面)-文献7)より

診断手順

*シネMRIは蠕動障害をきたした小腸部位の同定と拡張の評価、癒着の評価などに非常に有効。検査も放射線被ばくなく、10分程度で完了し非常に患者への負担が少ない。

大腸限局型偽性腸閉塞 Isolated  Colonic Pseudo-obstruction

大腸に限局したPseudo-obstruction が報告されている。

(1) 急性型:Acute Colonic Pseudo-obstruction (Ogilvie’s syndrome)

(2) 慢性型:Chronic Colonic Pseudo-obstruction (CCPO)

(1) Acute Colonic Pseudo-obstruction (Ogilvie’s syndrome)

機械的閉塞機転がなく大腸が急速に拡張する疾患で、種々の全身疾患、特に術後に続発し、入院患者に起こることが多い。
可逆的で一過性。

大腸に高度の拡張を生じるため適切に減圧されないと穿孔を起こし致命的となる。原因は自律神経系の異常と推察されているが直接の根拠となるエビデンスはない。

Ogilvie症候群はwilliam Heneage Ogilivie卿が1948年の報告にちなんで呼称されている。

(2) Chronic Colonic Pseudo-obstruction (CCPO)

大腸に限局したpseudo-obstruction

特発性(原発性)と続発性に分類される。

症状を呈する時は画像的に巨大結腸を認める。

症状は便秘、食後の腹部膨満腹痛である。

小腸が障害され吸収不良症候群を呈するCIPOと異なり体重減少はあっても軽度である。

急性巨大結腸症と異なり穿孔はまれである。

1. 慢性大腸型偽性腸閉塞の分類 (CCPO)

慢性特発性大腸型偽性腸閉塞 (CICP)
慢性続発性大腸型偽性腸閉塞

2. 大腸限局型偽性腸閉塞の疾患概念・特徴

参考 成人型Hirschsprung 病

  • aganglion 部分の非常に短い short segment type
  • 幼少期からの便秘(患者自身の自覚が乏しいことが多い)
  • 慢性巨大結腸症を呈し慢性偽性腸閉塞との鑑別が問題となる
  • ほとんどの症例が20歳前後と若いが、60歳で診断がつく例もある
  • 直腸生検でのアセチルコリンエステラーゼの染色陽性
  • 直腸・内肛門括約筋反射の消失
  • 注腸造影でCaliber change を認める

 

3.  Anurasらは以下の4項目をCICPの診断手順として提唱した;

  1. 結腸にのみ限局する腸管の拡張、鏡面像。従来は腹部単純X線で診断をしていたが現在ではマルチスライスCTで非常に高い診断結果を得られるようになった。
  2. 機械的閉塞の除外。これはマルチスライスCTさらには注腸・内視鏡で診断できる。
  3. 薬剤の服薬歴の聴取や、全身疾患の除外など続発性の鑑別。
  4. 大腸以外の腸管の拡張、motility異常の除外。食道内圧測定で異常がないこと。マルチスライスCTや消化管造影検査で食道、胃、十二指腸、空腸、回腸の異常がないかを検索する。結腸以外の消化管の通過時間の異常がないことの確認は造影剤のfollow throughや最近ではカプセル内視鏡でも測定できる。可能であれば小腸マノメトリーでの小腸運動の異常の除外。

 

慢性偽性腸閉塞(CIP)のこれまでの病理学的知見(Amiot論文を中心に)

背景

CIPは機械的な原因がないにもかかわらず腸閉塞症状をきたす疾患である。

成因によって①筋原性、②神経原性、③間質性に分けられる。

それぞれ腸管蠕動低下の原因として独立したものだが、混合例もみられる。

<それぞれの病理学的特徴>
  1. 筋原性:内輪筋、外輪筋の線維化および空胞化
  2. 神経原性:神経節の損傷や著明減少(hypoganglionosis)を特徴とする退行性神経障害と、筋層間への炎症細胞浸潤を特徴とする炎症性神経障害がある。
  3. 間質性:AuerbachやMeissnerなどの腸管神経(ENS)とは別に、腸管蠕動のペースメーカーとして働くカハール介在細胞(Interstitial cell of Cajal: ICC)の減少や消失。(Amiot A et al. Am J Surg Pathol. 2009;33:749-58)

ただし、これらの所見は全てのCIP患者でみられるわけではなく通常のHE染色では15-36%の症例で病理学的に「異常がない」(感度が低い)。(De Giorgio R et al. Gut. 2004;53:1549-52)

近年では免疫組織化学を組み合わせることにより、通常標本(HE染色)では異常がなくても特定のタンパクの消失・欠損などが分かるようになってきた。

Amiotらの研究

筋マーカー(smooth muscle α-actin: SMAA, desmin, smoothelin-A/B)、神経マーカー(Hu C/D, Bcl-2, S100 protein)、間質細胞(ICC)マーカー(CD117)を用いた免疫染色を行った。CIP患者群と対照群の手術検体(全層標本)を比較した症例対照研究。

SMAA:陽性がnormal、陰性がabnormal

(control群)86%と高率で回腸の内輪筋のSMAA陰性、外縦筋のSMAA陽性。空腸は内輪筋・外縦筋ともにSMAA陽性。10%で大腸の固有筋層SMAA陰性。

(CIP患者群)55%で回腸の内輪筋のSMAA陰性、15%で空腸の内輪筋のSMAA陰性。大腸SMAA発現は異常なし。

→空腸内輪筋でのSMAA陰性がCIP群とcontrol群の最大の違いだが、患者群のSMAA陰性率が低い(感度が低い)。またcontrol群での回腸内輪筋のSMAA陰性率が高い(特異性も低い)。したがってあまり有用でない。

desmin, smoothelin-A/B antibody :

→CIPOの全例で正常発現。有用でない。

Hu C/D antibody

空腸・回腸・結腸のいずれの部位においても、筋層間神経叢(myenteric plexus=Auerbach)のganglion数 はHE染色でもHu C/D染色でもほぼ検出率に差は無いが、ganglion cell数はHu C/D染色を行うことでHE染色よりも大幅に検出率が上がる。Hypoganglioosisが29%の症例で証明でき、そのうち2/3はHE染色ではhypoganglionosisが分からない症例であった。→有用である。

Bcl-2

Bcl-2は(主に神経細胞の)ミトコンドリア内タンパクで、細胞分化・成熟・アポトーシスに関与している。Bcl-2低下は神経退行性変化を示唆するものだが、本論文の症例ではBcl-2発現低下は見られなかった。

CD117

Control群では全例で正常発現(Myenteric plexus周囲やMPに均一に発現)。

症例群の全21人中10人(48%)、全41検体中18検体でICCのsevere defect(正常と比べて80%以上のdefect)が確認された。これらのうち6人(60%)は通常のHE染色でもmyopathyが分かっていたが、2人(20%)はHEでは何も異常がないものであった。→有用である。

*18検体の内訳(Jejunum: 7/15, Ileum: 8/19, Colon: 3/7 いずれの部位も感度40-50%程度と差は無さそうである)

結論

通常のHE染色ではmyopathy、neuropathyを証明することは容易であるが、1/3の症例では異常を指摘することができない。系統的免疫染色を行うことでHE染色で異常が指摘できない症例の75%に異常を指摘できるようになる。ただし、残念ながら筋マーカーは有用ではない。実際臨床では、CD117免疫染色をルーチンで行い、Hu C/Dは他に異常所見が分からない場合に2番目に行うべきである。

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