慢性便秘と巨大結腸症

巨大結腸症 (Megacolon)

はじめに

巨大結腸症とは機械的閉塞機転がないのに形態学的に結腸が正常に比べて有意に拡張した状態を指す症候群である。急性および慢性に分類され、各種疾患、病態・機能に基づいた症候群に続発、オーバーラップする。巨大結腸の定義は定まったものはないが一般に盲腸で12cm以上と考えられている。大腸の拡張に関しては部位による違いが大きく、上行結腸では8cm以上、直腸S状結腸では6.5cm以上で巨大結腸症と考えられている。

(1) 急性巨大結腸症

急性の巨大結腸症を示す疾患として急性大腸偽性腸閉塞症と中毒性巨大結腸症が臨床上重要である。

1. 急性大腸偽性腸閉塞症(Ogilvie症候群)

機械的閉塞機転がなく大腸が急速に拡張する疾患で、種々の全身疾患、特に術後に続発し、入院患者に起こることが多い。原因疾患として表1に示す。

大腸に高度の拡張を生じるため適切に減圧されないと穿孔を起こし致命的となる。

原因は自律神経系の異常と推察されているが直接の根拠となるエビデンスはない。

Ogilvie症候群、急性大腸偽性腸閉塞症、(腸管以外の)術後イレウスなどとも呼ばれ名称は混乱していた。

Ogilvie症候群はwikkiam Heneage Ogilvie卿が1948年に報告した後腹膜腫瘍の患者において突然発症した腹痛・便秘・大腸拡張にちなんで呼称されている。

症状は急速な腹部膨満・腹痛をみとめ急性大腸閉塞症状を示すが機械的閉塞でないために排ガス排便の完全な停止はない。腹痛の程度は重傷度と相関しない。

本疾患で最も重篤な合併症は盲腸および右側結腸の穿孔である。

急速な大腸の拡張のために腸管内に腸液の貯留がおき脱水となるため脱水の補正が重要である。海外の比較対照試験などにより治療法はネオスチグミンの初回投与の有効性が60-90%であることが示されているが、循環器系の副作用に十分留意しないといけない。また内視鏡的減圧が80%の症例で有効であることも示されている(ただし中毒性巨大結腸症では禁忌)。外科的治療の適応は極めて限られたものである。盲腸穿孔の死亡率は50%に達する。予後は現疾患の状況に大きく依存する。

(R.De Giorgio et al. Acute colonic pseudo-obstruction  British Journal of Surgery 2009; 96: 229-239)

表1 急性巨大結腸症の原因

  • 心血管疾患
    • 心筋梗塞
    • 心不全
    • 心肺蘇生後
  • 代謝性疾患
    • 電解質異常(特に低カリウム血症)
    • 肝不全・腎不全
    • アルコール中毒
  • 薬剤性
    • フェノチアジン
    • 抗うつ薬
    • オピオイド
    • 抗パーキンソン薬
    • 鉛中毒
  • 感染症
    • 敗血症
    • 肺炎
    • 膵炎
    • 帯状疱疹
    • 急性虫垂炎
    • 髄膜炎
    • 腹膜炎
  • 腫瘍
    • 白血病
    • 後腹膜腫瘍
  • 術後
    • 腎移植後
    • 帝王切開後
    • 腹部手術後
    • 骨盤内手術後
    • 婦人科手術後など
  • 外傷後
    • 人工呼吸管理下
    • 脊椎損傷
    • 骨盤損傷
    • 大腿部外傷など

 

2. 中毒性巨大結腸症 Toxic Megacolon

中毒性巨大結腸症は大腸の非閉塞性の6cm以上の拡張と全身症状を伴い、炎症性腸疾患や感染性腸炎の致死的合併症として1950年に初めて報告された疾患概念である。

現在では(慢性の増悪も含めた)急性の大腸炎に伴う腸管の拡張に加え、発熱・脱水・精神状態の異常などの全身中毒症状を伴う場合に用いる。

中毒性巨大結腸症を惹起する病因は以下の表2に示す。

表2 中毒性巨大結腸症の誘因

  • 炎症
    • 潰瘍性大腸炎 クローン病
  • 感染
    • 細菌:偽膜性大腸炎、サルモネラ。赤痢、キャンピロバクター、エルシニア
    • 寄生虫:アメーバー、クリプトスポリジウム
    • ウイルス:サイトメガロウイルス、HIV
  • その他
    • バリウムを用いる注腸X線撮影
    • 大腸内視鏡検査
    • 主にステロイドなどの治療薬の中断
    • 腸管運動抑制薬の投与

詳細な発生頻度などの疫学は不詳である。潰瘍性大腸炎やクローン病患者の中毒性巨大結腸症の生涯罹患率は1-5%に認めると30年前は考えられていたが、その後当該疾患の早期の認知の高まりと治療の進歩により罹患率は大幅に減少してきていると推測される。

病態は炎症の腸管筋層までの波及と炎症細胞から産生される一酸化窒素による平滑筋弛緩作用によるものと考えられている。

中毒性巨大結腸症は基礎となる大腸炎の増悪中に発症することから、腹部膨満や、下痢などの症状がみられれば当該疾患を念頭に置くことがまず重要である。重篤な症状やサインはステロイドや対症療法によりマスクされてしまい見落としがちであることを念頭におき診断を進めなければならない。疑ったら腹部単純X線の撮影(仰臥位が望ましい)をして結腸の拡張があれば以下の診断基準を活用する。診断基準を表に示す。

表 中毒性巨大結腸症の診断基準

  1. X線での結腸の拡張所見(仰臥位腹部単純X線で横行・上行結腸の径>6cmなど。CTが有用)
  2. 以下の項目のうち3つ以上を満たす
    ・38度以上の発熱
    ・脈拍120以上
    ・白血球増多(>10500 x 103/mL)
    ・貧血
  3. 加えて以下の項目から一つ以上
    ・脱水
    ・意識障害
    ・電解質異常
    ・低血圧

治療の基本は早期からの輸液や電解質異常の補正など全身管理とモニタリングを行うこと、腸管安静・腸管内減圧のために絶食・中心静脈管理、胃管やイレウス管留置などを行う。早期からの外科医の介入が望ましい疾患である。体位変換を行いガスの排出を促す治療が有効との報告もある。原疾患の炎症を鎮静化するために炎症性腸疾患に対してはステロイド投与、感染症に関しては抗生物資投与、貧血に対しては輸血などを行う。Toxic megacolonでは注腸検査、内視鏡や抗コリン薬は禁忌である。

上記の内科的治療を行っても48-72時間後にも悪化傾向があればためらわずに外科的治療を考慮する。中毒性巨大結腸症の死亡率は炎症性腸疾患においては2%未満である。何よりも重要なのは早期の疾患認知と早期の集中治療と、早期の手術のタイミングなどである。

(Sunil G Sheth, J Thomas LaMont.  Toxic Megacolon  The Lancet 1998; 351: 509-513)

(2)慢性巨大結腸症

時としてPseudo-Hirschsprumg’s syndromeと呼ばれたことがある。

慢性大腸限局型偽性腸閉塞および成人型Hirschsprung病、特発性慢性巨大結腸症、続発性慢性巨大結腸症などが臨床的に重要である(表3)。

表3 慢性巨大結腸症の原因

  • 特発性慢性巨大結腸症
  • 続発性慢性巨大結腸症
    • Motilityの異常疾患
      • 慢性特発性大腸偽性腸閉塞症
    • 神経系の異常によるもの
      • 成人型Hirschsprung病(Short-segment Hirschsprung病)
      • 神経節細胞減少症(Hypogangliosis, a gangliosis)
      • パーキンソン病
      • Von Recklinghausen病
      • Chagas病、風疹感染(?)
    • 筋緊張性ジストロフィー
    • 内分泌疾患
      • 甲状腺機能低下症
      • 糖尿病
      • 褐色細胞腫
    • 後腹膜悪性腫瘍
    • 精心疾患
    • Cathartic症候群(下剤の乱用)
    • 薬剤性(クロニジン)

 

1. 成人型Hirschsprung病

本邦での過去の報告例では幼少期より高度の便秘が見られ、浣腸下剤などによりコントロールされている症例が多いことから。幼少期から持続する難治性の便秘と巨大結腸像を認める症例では成人型Hirschsprung病を鑑別しなければならない。しかしながら成人型Hirschsprung病では患者自身は幼少時よりの便秘に慣れ自分の便秘が病的との認識が欠如していることもある。

鑑別として虚血性腸炎や炎症性腸疾患が考えられ、過去の症例報告では実際に巨大結腸症による閉塞性腸炎であったのにかかわらず炎症性腸疾患として切除術がおこなわれた報告がある。

成人型Hirschsprung病ではganglionの消失するnarrow segmentが一般に下部直腸に限局することから注腸造影検査では直腸側面でのcaliber changeを認めることが多いまた直腸肛門管内圧検査で内括約筋弛緩反射の消失を認めることが特徴である。直腸の全層生検が施行できればアセチルコリンエステラーゼ陽性の神経線維の増加を認め神経節細胞の消失を認めることができる。

(谷脇 聡 ほか Hirschsprumg病成人例の2手術例 日消外会誌 2001;34:1675-1679)

2. 慢性大腸型偽性腸閉塞(Chronic Colonic Pseudo-obstruction)

偽性腸閉塞症(intestinal pseudo obstruction)は,消化管運動が障害されることにより蠕動運動が障害される結果消化管内容物の輸送ができなくなり,機械的な閉塞機転がないにもかかわらず腹部膨満,腹痛,嘔吐などの腸閉塞症状を引き起こす症候群である。消化管における罹患範囲は食道から直腸に至る全消化管に及ぶことが知られている。元来はPseudo-obstruction(邦文では消化管偽性閉塞症とでも訳すべきか)は繰り返す腸閉塞症状に限定して使われていた、つまり小腸における異常として使われていた、しかしながらpseudo-obstructionは蠕動運動の欠如によってアカラシア等の食道単独の異常や、Gastroparesisなどの胃単独の異常、Chronic megacolon(巨大結腸症)やslow-transit constipation(難治性慢性便秘)などの大腸限局の異常、排便障害による直腸肛門機能異常など消化管各セグメント単独の異状を合併し、時に同一患者で複数の消化管部位の異常を合併することからintestinal pseudo-obstructionは広義に消化管全体に起こる蠕動運動の異常をさすようになった。わが国では慢性偽性腸閉塞症chronic intestinal pseudo-obstruction(CIPO)は小腸および大腸の罹患範囲での異状として使われることが多い。

CIPOは,腸管筋系や腸管神経系の異常による特発性(原発性)のもの,全身性硬化症(SSc)やミトコンドリア脳筋症等の基礎疾患の影響によるものや,抗精神病薬や抗うつ剤などの薬物使用の影響による続発性のものに分類される.感染症に続発するものとしては世界的にはTrypanosoma CruziによるChagas病が有名である。Chagas病は南米に多く感染部位の神経節を破壊する。感染部位により、食道単独、大腸単独、複数個所などの偽性腸閉塞症が惹起されるとされている。

慢性特発性大腸限局型偽性腸閉塞は、他の続発性巨大結腸症が除外されている場合に大腸に限局した偽性腸閉塞で機械的閉塞機転が認められないに大腸閉塞の症状を認める疾患である。画像的に巨大結腸を認めるが、必ずしも結腸の拡張が必須でなく、以前から拡張所見のない症例も存在する。

病理組織は筋層の肥厚、変性、神経節の変性など様々な所見を呈する。慢性巨大結腸症=慢性大腸型偽性腸閉塞と考えられた時期もあり、疾患概念の混乱がある。

症状は腹部膨満や便秘、食後の腹痛である。小腸が障害され吸収不良症候群を呈するCIPOと異なり体重減少はあっても軽度である。Ogilvie症候群から慢性偽性腸閉塞症に移行する症例がある。急性巨大結腸症と異なり穿孔はまれである。平成21年度の厚労省CIPO調査班の全国調査では,全国の外科系施設からの回答を解析したところ,大腸限局型慢性特発性偽性腸閉塞症では91%に外科的治療の効果を認めたが,病変が広範囲に及ぶ大腸・小腸型や小腸型のCIPOに対しては適応はないという報告がなされた
したがって罹患小腸切除後も解剖学的に別の部位の腸管に再発するCIPOと異なり慢性特発性大腸限局型偽性腸閉塞は腸管切除により寛解が期待される。従ってCIPOとの鑑別が非常に重要となる。

図 慢性巨大結腸症の一例

S. Anurasらは以下の4項目を慢性特発性大腸限局型偽性腸閉塞の診断手順として提唱した;

  1. 結腸にのみ限局する腸管の拡張、air-fluid level。従来は腹部単純X線で診断をしていたが現在ではマルチスライスCTでのcoronary断で非常に高い診断結果を得られるようになった。
  2. 機械的閉塞の除外。これはマルチスライスCTさらには注腸・内視鏡で診断できる。
  3. 薬剤の服薬歴の聴取や、全身疾患の除外など続発性の鑑別。
  4. 大腸以外の腸管の拡張、motility異常の除外。食道内圧測定で異常がないこと。マルチスライスCTや消化管造影検査で食道、胃、十二指腸、空腸、回腸の異常がないかを検索する。結腸以外の消化管の通過時間の異常がないことの確認は造影剤のfollow throughや最近ではカプセル内視鏡でも測定できる。可能であれば小腸マノメトリーでの小腸運動の異常の除外。

治療は内科的には排便を促進させることを行う。下剤や浣腸、クエン酸モサプリドや大建中湯が使用される。増悪時にはネオスチグミン、サンドスタチン、エリスロマイシンなどが使用されるが、保存的治療が奏功しないときは外科的治療が奏功し予後は良好である。

(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究班 平成21年度総括・分担研究報告書)

(Sinn Annuras, Siroos S Shirazi.  Colonic pseudoobstruction  The American Journal of Gastroenterology.  1984; 79: 525-532)

表 慢性特発性偽性腸閉塞症(CIPO)と慢性特発性大腸限局型偽性腸閉塞症の差異

  慢性特発性偽性腸閉塞症(CIPO) 慢性特発性大腸限局型偽性腸閉塞症
障害腸管範囲 小腸を含む全消化管 大腸のみ
症状 嘔気・嘔吐、腹部膨満などの腸閉塞症状 腹部膨満、食後の腹痛が主であり、嘔気・嘔吐は少ない
家族歴 あり なし
消化管外合併症 泌尿器系異常、時として精神異常 なし
体重減少 進行例で必発 無いかあっても軽度
治療 治療のゴールは症状に対する対症療法とできるだけ手術を避けるための予防、吸収不良による体重減少を防止するための栄養サポート。海外では小腸移植が行われる。 対症療法が奏功しない時や繰り返す軸捻点などでは結腸亜全摘により長期寛解が期待できる。
一般に消化管蠕動促進薬は無効であることが多い。

 

3. 特発性巨大結腸症

慢性の難治性便秘で結腸の拡張を伴い、腸閉塞症状などもなく他の疾患が鑑別されたもの。概念は定まったものではない。原因も不詳。病理では肥厚した腸管平滑筋層を認める。症状は慢性の便秘を認め(~3ヶ月に1回の排便)、腹部膨満を訴える、時として腹痛を訴えることがあるが嘔吐は認めない。生理的解析ではバロスタットでの感受性閾値の上昇を認める。繰り返す結腸軸念転などは手術適応とされ結腸切除により寛解が得られ、予後は良好である。

(JM Gattuso, MA Kamm. Clinical features of idiopathic megacolon and magarectum.  Gut 1997; 41: 93-99)

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